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東京地方裁判所 昭和63年(特わ)2387号 判決

本店所在地

東京都千代田区麹町四丁目四番地 パシフィックビル三〇三号

株式会社アオイハウジング

(右代表者代表取締役 青井強)

本籍

岡山県玉野市宇野一丁目三一〇六番地の四

住居

神奈川県藤沢市鵠沼海岸二丁目七番六号

会社役員

青井強

大正三年一一月二三日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井上經敏、同浦野正幸出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社アオイハウジングを罰金四五〇〇万円に、被告人青井強を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人青井強に対し、この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社アオイハウジング(以下、被告会社という。)は、東京都千代田区麹町四丁目四番地パシフィックビル三〇三号(昭和六一年九月二九日以前は、同都同区平河町一丁目四番一二号)に本店を置き、不動産の売買、交換及びその代理並びに媒介の業務等を目的とする資本金二〇〇〇万円(昭和六二年七月二〇日以前は、資本金六〇〇万円)の株式会社であり、被告人青井強(以下、被告人青井という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人青井は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空原価を計上する方法で所得を秘匿したうえ、昭和六〇年一〇月一日から同六一年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七億一七七二万七一九九円、課税土地譲渡利益金額が六億二〇六八万一〇〇〇円あつた(別紙一修正損益計算書、同二脱税額計算書参照)のにかかわらず、同六一年一二月一日、同都同区神田錦町三丁目三番地所在の所轄麹町税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四億六九七二万七一九九円、課税土地譲渡利益金額が三億五四三四万三〇〇〇円で、これに対する法人税額が二億七一八九万一一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成元年押第九九号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四億三二五三万九九〇〇円と右申告税額との差額一億六〇六四万八八〇〇円(別紙二脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

判示の事実につき

一  被告会社代表者兼被告人青井の当公判廷における供述

一  被告人青井の検察官に対する供述調書四通

一  天貝秀雄、大石忠男、平間昌夫、青野征喜、佐藤政雄の検察官に対する供述調書各一通

一  収税官吏作成の不動産売上原価調査書

一  収税官吏作成の課税土地譲渡利益金額調査書

一  大蔵事務官作成の領置てん末書

一  登記官作成の商業登記簿謄本

一  押収してある61/9期法人税確定申告書(株式会社アオイハウジング)一袋(平成元年押第九九号の1)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社の判示所為につき、法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

2  被告人の判示所為につき、法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人青井につき、所定刑中懲役刑を選択

三  刑の執行猶予

被告人青井につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、不動産売買や仲介等を目的とする被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括していた被告人青井が、被告会社の業務に関し、架空の不動産売買仲介協力金を土地取得原価の一部として計上するとともに、いわゆる「土地重価」の計算上取得原価に算入し得ない貸倒損失等を右取得原価に計上して同社の所得を秘匿し、昭和六一年九月期の同社の法人税一億六〇六四万八八〇〇円をほ脱した事案であって、ほ脱額が高額で、ほ脱率も三七・一四パーセントに及んでおり、その犯行の動機も、将来の不況に備えて被告会社の財政基盤を安定させるとともに、経営の多角化を図るための資金を蓄えるためというもので特段酌むべきところはなく、所得秘匿の手段も、手数料を支払って入手した金額欄等白地の領収証一一枚を利用し、不動産売買仲介協力金の名目で合計二億四八〇〇万円に上る架空領収証を作成してこれを土地取得原価(未払費用)の一部に計上する等という大胆なものであったこと、本件犯行の性質、本件起訴にかかる法人税の本税等が完納未了であること等を考慮すると、犯情は悪質であり、被告会社及び被告人青井の刑責を軽視することは許されない。

しかしながら、被告人青井は、本件発覚後はその非を認めて犯行を自認し、起訴対象年度分の被告会社の法人税につき修正申告をなし、本税・附帯税について本年七月二五日を支払期日とする手形を国税当局に差し入れ、被告人青井所有の土地、建物に抵当権を設定したほか、被告会社所有の不動産の売却準備を進めており、未納分の納付の見通しをつけていること、被告会社の現況、被告人青井の今日までの稼働状況、年齢、健康状態が悪化していること、その他、弁護人指摘の被告会社及び被告人青井のために有利な、又は、同情すべき事情が認められる。

以上の諸事実を総合勘案すると、被告会社に対しては主文掲記の罰金刑を科し、被告人青井に対しては、直ちに実刑に処するより、今回に限り懲役刑の執行を猶予し、社会内において更生する機会を与えるのがそれぞれ相当であると判断して、主文掲記の各刑を量定した次第である。

(求刑 被告会社につき罰金五〇〇〇万円、被告人青井につき懲役一年六月)

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 中野久利)

別紙一

修正損益計算書

株式会社アオイハウジング

自 昭和60年10月1日

至 昭和61年9月30日

〈省略〉

別紙二

脱税額計算書

株式会社アオイハウジング

自 昭和60年10月1日

至 昭和61年9月30日

〈省略〉

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